高野山在学中に、
花園・法金剛院、広沢・遍照寺の十一面を何度もお参りしました。
好きになったみたい。
強烈な印象を
十一面観音に持ったのは、井上靖の『星と祭』。
読んですぐに、
そこに書かれている観音さま周辺を拝みに、
琵琶湖のまわりを旅しました。
若狭小浜の明通寺、羽賀寺、多田寺を巡ってから湖北へ出て、
石道寺、向源寺、鶏足寺己高閣、充満寺、赤後寺、
長浜の知善院。
十一面というのは、顔が十一もある異形なのに美しい。
人間ではないけれど、人間らしい。
なぜ十一面なのかはいくつかの説があります。
十一の修行カリキュラムを満足して最も高い悟りの境地へ至ったから、
十一億の諸仏が説いた呪文で、この観音が現されている、
など。
十一面のうち、
前の三面は慈悲の顔、やさしさ。
右の三面は牙を出し、おうえん。
左の三面は煩悩に対する怒り、しつけ。
後ろの一面は怒りながら大笑いするお顔。
そして頂上にさとりのお顔がある。
軍持という花瓶を持ち、
ここにある甘露が衆生の煩悩の熱を冷ます。
掌をこちらに向け、
やさしさと思いやりを現している。
恩師や妻との出会いは、
観音のそれと変わりない。
十一面とは、
そういうことだろうか。