寺田寅彦の『空想日録』に
「学生の時分に天文観測の実習をやった。
望遠鏡の焦点面に平行に張られた五本の蜘蛛くもの糸を横ぎって進行する星の光像を目で追跡すると同時に耳でクロノメーターの刻音を数える。
そうして星がちょうど糸を通過する瞬間を頭の中の時のテープに突き止めるのであるが、まだよく慣れないうちは、あれあれと思う間に星のほうはするすると視野を通り抜けてしまってどうする暇もない。しかし慣れるに従って星がだんだんにのろく見えて来る、一秒という時間が次第に長いものに感ぜられて来る。そうして心しずかに星を仕留めることができた。
水泳の飛び込みでもおそらく習練を積むに従って水ぎわまでの時間が次第に長くなって、ゆるゆる腰刀を抜いて落ち着いてねらいすまして敵を刺すことができるようになるのではないかと思われる」
何でも慣れると手早くできます。
そうでない人をみると、
もたもたしてじれったい。
達人はスムーズでスマート
時間が伸びて、陰性になるんですね。
拝んでいると、
心も時間が伸びて、
世界が無限になります。
一秒が一日になり
一日が一秒になる。
もっともっと、長く短く、
自由自在。